福島地方裁判所 事件番号不詳 判決
主文
原判決を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の供述は、被控訴人において、農地調整法第五条第四号同法施行令第三条第五号により本件買戻については、地方長官の許可は不要であると述べ控訴人において、被控訴人は昭和二十二年五月三十日代金五百円を持参して、本件土地の買戻を求め、費用として百円出そうといつたが、控訴人はこれを拒絶したのである。被控訴人が六百円を供託したことは、これを認めるが、右買戻にあたつて、地方長官の許可を得なかつたから、所有権移転の効力は生じない。従つて被控訴人は所有権移転登記手続を請求することもできないし、控訴人がこれに応ずることもできないと述べたほか、原判決摘示事実と同様であるから同旨の部分はこれを引用する。
(立証省略)
理由
被控訴人先代利喜松が昭和十二年十月二十二日その所有の別紙物件目録記載の土地を代金五百円で控訴人先代八十八に売渡し、同時に昭和二十二年十月二十二日までの間に、右金額でこれを買い戻し得る旨の特約を結び、その旨の登記を経たこと、利喜松は昭和十四年三月十八日また八十八は昭和二十年十月十六日、いずれも死亡して被控訴人並びに控訴人がそれぞれその家督相続をしたこと、被控訴人が昭和二十二年五月三十日金五百円を控訴人に提供して、本件土地を買い戻す旨の意思表示をしたが、控訴人がこれを拒絶したので被控訴人は同年七月二十三日、右金五百円及び契約費用百円合計金六百円を弁済のため供託したことは当事者間に争がない。
よつて、本件土地の所有権が被控訴人に移転したかどうかを勘考するに、民法第五百七十九条所定の買戻の特約は不動産の売主が、後日右売買を解除してその所有権の回復を目的とし、買主において、買戻の意思表示があれば、その所有権が売主に移転することを承諾するによつて成立する特約である。すなわち買戻は契約によつて売主が解除権を留保したものであるから、一般の契約解除と同様売主の有効な買戻の意思表示があれば、当然直ちに解除の効力が生じて、その所有権は売主に復帰するもので、これについては別に買主の承諾を要しない。しかるに農地調整法(昭和二十年法律第六十四号)第五条は「農地の所有権、…………その他の権利の…………移転は命令の定むる所に依り当事者において地方長官…………の許可を受くるに非ざればその効力を生せず」と規定し、同法(昭和二十一年法律第四十二号)第四条は「農地の所有権、…………その他の権利の…………移転は命令の定むる所に依り当事者に於て地方長官の許可…………を受くるに非ざれば之を為すことを得ず。第一項の許可…………を受けずして為したる行為は其の効力を生せず」と規定したから、前記第五条の施行された昭和二十一年二月一日から、まま前記第四条の施行された同年十一月二十二日からは、同法が特に前記各法条の適用を除外した場合のほか、農地の所有権の移転は、総て地方長官の認可若しくは許可を受けない限り、その効力を生じない。従つて、同法施行前に買戻の特約によつて売買の解除権を留保した売主であつても、同法施行後に解除権を行使するときは、売買の目的物である不動産が農地である以上、これについて地方長官の許可を受けない限り、その所有権を回復することはできない。何となれば解除権の行使は、売買によつて一旦買主に帰属した農地の所有権を売主に復帰させるものであり、この復帰は前記法条にいわゆる所有権の移転にほかならないからである。尤も農地調整法施行令(昭和二十一年勅令第三十八号、第五百五十六号)第三条第五号によれば「土地収用法其の他の法令に依り買戻権を有する者が其の買戻権に基き農地の所有権を譲受けんとするとき」は地方長官の許可を受ける必要がないことになつているが、同号にいわゆる買戻権とは土地収用法第六十六条第一項のように法令が直接に規定している買戻権のことであつて、民法所定の買戻の特約のように、当事者の契約による買戻権はこれを包含しないのであるから、後者の場合は、他の原因による所有権の移転と同様、地方長官の許可を受けることが、その効力発生の要件となるわけである。本件では、さきに認定したように買戻の特約の成立したのは昭和十二年十月二十二日ではあるが、被控訴人が買戻の意思表示をしたのは昭和二十二年五月三十日であり、また当事者弁論の全趣旨によれば本件土地は農地であるにかかわらず、被控訴人がその所有権移転について地方長官の許可を受けなかつたことが明かであるから、上述した理由により、その所有権は被控訴人に復帰していないのである。従つて、その復帰を前提とする被控訴人の本訴請求は失当であるから、これを棄却すべきものである。
右と異る原判決は不当であるから、民事訴訟法第三百八十六条第八十九条を適用して主文の通り判決する。(昭和二三年九月一〇日福島地方裁判所民事部)
(別紙物件目録は省略する。)